映画「告白」 ---は現代のカチカチ山(笑)
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1) | |
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原作は読んでいないのですが、本屋大賞受賞作、
映画は「下妻物語」「嫌われ松子の一生」の
中島哲也監督ということで、
興味津々、観にいってきました。
娘を殺された女性教師(松たか子)が、
教え子に復讐をするというお話。
感想はというと・・・。
うーん、私はあんまり好きじゃなかったかな。
だって、現実に中高生の間で殺傷事件が頻発している昨今、
フィクションと笑い飛ばせる気分じゃないかも・・・。
でも評判はいいみたいですよね。
私も映画としては、よくできていると思います。
演出も、俳優さん達の演技も。
しかし、子供同士の殺し合いならまだしも、
いい大人が子供に仕返しっていうのもなあ、と。
「少年法に守られている」っていう言葉が頻々と出てきますが、
それでも「少年」が「大人」より優位に立つとは思えない。
やっぱり子供って弱者じゃないかな。
たとえそれが「恐るべき子供たち」であっても。
と、腑に落ちない気分でいたんですが、
たまたま太宰治の「お伽草子」を読んでいて、
ああ、この話って「カチカチ山」だったんだ、と
ちょっと腑に落ちました(笑)
「カチカチ山」はみなさんご存知、
おばあさんを殺されたおじいさんに代わって、
ウサギが悪いタヌキに仕返しをするという物語です。
しかし太宰治も書いてるのですが、
この仕返しがあまりにも残酷。
タヌキの背中に火をつけて大火傷を負わせた上に、
死にそうなタヌキの背中にさらに唐辛子を塗る。
最後は泥舟に乗せて溺死させ。
たしかにおばあさんを殺した罪は重いですが、
タヌキも元はと言えば、おじいさんにタヌキ汁にされそうになった
気の毒な身の上。
だからといって、優しいおばあさんをだまして逃げるついでに
殺して「婆汁」にし、おじいさんに食べさせたなんていうのは、
これはもうR-15指定ものの残虐行為ですが、
あそこまでネチネチと苦しめた上に
殺さなくてもいいのではないかと、
太宰治も言っている。
ではなぜ、ウサギはそこまで残酷な仕返しをしたかというのは、
これまた太宰の解釈がケッサクなのですが、
それは青空文庫ででもお読みください。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/307_14909.html
というわけで、映画「告白」は、女性教師が女性ならではの残酷さで、
男子生徒に徹底的な復讐をするというお話。
「カチカチ山」のおじいさんが、
よりによってウサギさんなどという動物に
おばあさんの復讐をゆだねてしまったのと同様、
「告白」の教師も、自分ではあんまり手を下さないんですよね。
人をそそのかしたり、なんだりで。
そういうところも、似ていますね。
でもこの「カチカチ山」対「告白」は、
(↑勝手に対決させる私)
カチカチ山の勝ちのような気がします。
なぜなら、カチカチ山のウサギは、
「更生」なんて偽善的な言葉は口にしないからです。
徹底的にやって、殺しちゃうし。
復讐物語というのは映画のひとつの定番で、
完全フィクションの世界でやる分には面白いし、
観客としてカタルシスも得られるものです。
その中において、
仮にも復讐を誓って実行しようという者が、
「更生」なんて言葉は口にしてはいけないと思うんですよ、作劇上。
第一、復讐にとりつかれた人間は、「更生」なんて言葉は
頭にこれっぽっちも浮かばないはずなんですが・・・。
そのへんちと、納得がいきません。
それに、カタルシスもないですよ、この映画。
(まさかラストで、やったね!! でもないですよね、この映画?)
とまあ、センセーショナルではあるけど、
結局、何が言いたいのかよくわからない映画でした。
少年法に異議を唱えてる? わけでもなさそうだし。
最近の子供は怖いよー、ってことでしょうか。
しかし映画でそれを知らせてもらったところで、
いったいこっちはどうすれば!?
ああそうか、いざとなったら復讐ですか。
私には無理なんで、ウサギさんに依頼します。(笑)

この記事へのコメント
ふ~む、そういう対比ですかあ~告白、けっこう話題になっていましたが、なんか手にとって読む気はしませんでした。「告白」はやっぱ町田康でしょ、って。あのはちゃめちゃさはすごい!いくとこまでいっている。たぶん 湊 かなえさんのは、どこか中途半端なのかな?だからカチカチ山の勝ち?民話っていうのはとことん残酷だもんね。
読んでない私が言うのもなんだけど、今頃復讐がテーマっていうのもねえ~どうなんだろう?
実は町田康の『告白』知らなかったんですけど、amazonで冒頭部分を覗き見してみたら、めちゃめちゃ面白そうですね。
復讐物語も、上手く作れば面白いんですけどね。先日見た香港映画「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」なんて、よくできてました。
ヘタに復讐もののセオリーを破ろうとすると、奇をてらうだけの映画になっちゃうんじゃないかな~。
まだ原作を読んでいなくてすみません。なるほど、そういう解釈も出来るのですね。
映画を見た限りでは、「少年法も更生もチャンチャラおかしい」的な含みを私は感じてしまいました。確かにいまどきの子供は怖いのかもしれませんが、大人が子供をそんな視線で見ているばかりではいけないように思います。
前衛映画などは別として、大衆が見る娯楽映画は、倫理的に合っているべきと思うのです。小説でしたら、ある程度の倫理逸脱は許されると思いますし、小説『告白』
が、生徒に反省させるために先生が罠を仕掛けた、という内容なのであれば、面白いと同時に倫理的にも合ってると思います。
いずれにせよ、原作を読んでいない私は、原作までけなす権利も意図もないので、もし原作ファンの方が私の記事を読んで不愉快になったのならごめんなさいです。